一般博士学生の学振 特別研究員(DC1)採択までの道のり【申請書の書き方】

博士課程進学を考える学生の方は、きっと「学振」、「特別研究員」という単語を耳にするだろう。私もかつてはいろんな方の学振挑戦の体験談を調べて申請書を作成し、運良く特別研究員(DC1)に採択された身であるため、私の経験を同じような状況の皆様に共有したいと思う。ただ、私のケースは少し特殊で、非常に運が良かったということは先に断っておきたい(後述)。それでもためになることを共有できると思うので、ぜひ最後まで目を通し、参考にしていただければと思う。 なお、ここでは「学振・特別研究員・DC1とは何か」ということは説明を省き、学振特別研究員の申請書を書く上で気をつけたことを中心に書いていくのであしからず。

学振の申請書を書くうえで気をつけたこと

まず前提として、私は東京工業大学の大上雅史先生の「学振申請書の書き方とコツ」という本を参考にし、この本にかなり忠実に従って申請書を作成した。これは同じくDC1に採択された先輩らも同様であるので、ぜひ購入をお勧めする。なお、大上先生は上記書籍の一部をPDFファイルとしてWeb上に公開してくださっているので、そちらを参考にしても良いと思う。大上先生、本当にありがとうございました。

さて、申請書作成の上で気をつけた上記5点について順に述べていく。

1.第一印象で面白そう&頑張れば実現できそうと思ってもらえる研究計画

まずは研究計画の内容である。これはこれまで行ってきた研究を土台として考える人が多いはず。そこに、「独創性」を加えてさらに“面白い”研究提案ができればベストである。しかし、この「面白さ」を判断するのは審査員の先生方であり、彼らは必ずしも自分と全く同じ分野の専門ではない。つまり、自分(あるいは身の回り)にとって面白くても、その面白さが審査員に理解してもらえなければ良い印象を持ってもらえない可能性が高い。なので、誰にでもわかりやすく「面白そう」と“思ってもらえる”内容にするとベターである
私の場合は、無機材料を医学・生物学の領域で応用する研究計画を書いたが、この応用の内容が無機材料では目新しく、そして単純明快且つ重要なセンシングである、という点で興味を引きやすい内容であったと思う。

さらにもう一つ、「頑張れば実現できそう」の部分であるが、これは研究費の意義を考えるとわかりやすいと思う。噛み砕いて言えば研究費というのは投資であり、すぐにはリターンに繋がらないが、後々の技術の進歩・発展を期待して研究者に与えられる資金である。なので、根拠に乏しい無謀な内容では研究が完遂されないのではと思われ採択されない。裏を返せば、これまでの研究結果などの根拠をもとに新たなアイデア、実現したいこと、解明したいことを主張すれば、計画に説得力が伴って採用してもらいやすい(当たり前と言えば当たり前だが)。一方頑張らなくても実現できそうな計画は、支援するほどでもない・面白みに欠けると判断されやすい。
私の場合は、M1までの研究成果から鍵となるアイデアが得られ、目的とするセンシングに応用する上で必要な特性が得られることを既に検証済みであることを明示して、あと2~3年でこれらの実験、検証を行っていけば応用まで達成できる!というように、提案の前提に問題がないこと、行うべき実験などを明確に想定していることを強調した。これはうちのラボの助教が教えてくれたことだが、特別研究員に限らず研究費の申請書は実現可能性が重視されるためか、ある程度提案の根拠となる実験結果、成果があると体感通りやすいらしい。

そこそこ難しいが非常に役に立つor興味深い(面白い)、そしてこれまでの成果や目的達成に必要なことが明確である(頑張れば実現できそう)ならば、研究内容としては優れたものになると思う。

2.とにかくわかりやすく書く

1. と少し被るが、どんなに素晴らしい研究計画を書いても、内容が伝わらなければ意味がない。大上先生の書籍にも強調されているが、一番大事なのは読み手に内容が伝わることである。それも斜め読みで概ね全貌がわかるくらいにわかりやすいのが望ましい。前提として、審査員の先生は非常に忙しい中、申請書の審査を請け負っているケースが多い。つまり、審査に多くの時間は割けないため、短時間で理解しやすい申請書が望ましいのである。そうはいっても、専門性の高い研究内容で一目見てわかるように作れ、というのは酷な話である。そこで、私が気をつけた点を以下に書き出す。

・挿入図を順に見ることで研究内容が概ねわかるようにした

研究資料など情報量の多い書類の中身を概ね把握したいとき、多くの人は直感的に理解しやすい図を見る(論文を漁るとき、あなたも図から見るはず)。なので、この図を非常にわかりやすく、それでいて研究の背景、目的、進め方(実験内容)がしっかり伝わるように作れば、読み手にストレスなく内容を伝えられるという算段である。図を順に見ていくだけでストーリーが概ねわかる、というのが重要なので、変に作り込んで情報を盛り込みすぎるより、過不足なく端的に示す図が望ましい。

また、ストーリーだけでなく、図そのものの見やすさにも気を配った。ぱっと見で何を表しているかわかるようなイラストやグラフを作成し、色の濃淡や線の太さによる認識のしやすさを重視した。また、一般に学会発表用の資料などでは図中に説明の文字を入れるのは好ましくないが、申請書の場合は重要な事柄であれば書いても良いと私は考えている。但し、一目で理解できる文字数・大きさで、過不足なく説明するものに限る。

・図は白黒印刷でも理解可能な色づかいにした

これは審査員への配慮の一つで、PC画面上のPDFではなく印刷して紙で読む場合に支障が出ないようにするためのもの。目が悪い先生やメモを書きこむ習慣がある先生は書類を印刷しがちである。万が一カラー印刷できない場合や、インク代をケチってグレースケールで印刷する先生がいた場合にも問題なく読んでもらうために、念のため白黒印刷で図が変にならないか確認した。

・文章において太字、下線、ハイライトによる強調を使い、読ませたいところを意図的に作った

これはテクニックの一つだが、申請書は最低限の形式を守れば、文面に多少の加工が許される。要はわかりやすくなればマイナスに働くことはない。私の場合は「研究背景」や「本研究計画の着想に至った経緯」などの見出しを太字+ハイライト(薄いグレー)、本文中の読ませたいところを太字+下線で強調した。特に“読ませたいところ”はそこだけを読めば研究計画内容の要約となるような箇所であり、強調部分を読むだけで概要を把握できるような構成とした

・正しくわかりやすい言葉・文章を心がけた

日本語が間違っている箇所が一つでもあると、書き手の能力が低いと判断されその申請書の信憑性が下がる(読んでいる論文中の英語にミスがあったとき、怪しいな、大丈夫か?と思うのと同じ)。なので、ある文脈において適切な言葉を正しく使うことを徹底し、誤字・脱字、誤用を排除した。さらに、文・文章にも気を配った(文と文章の違いがわからない方は調べてみよう)。文中の修飾語の順や主語の明示・統一、文章については各文の前後関係に違和感がないかなどを確認し、読みやすくなるよう心がけた。

これについては実際に見た方がはやいと思うので、以下に文の修正例を示す。

修正前:小太りな帽子を被った前から歩いてくる男は私に視線を向け、不気味に感じた。

●この文の「小太りな」、「帽子を被った」、「前から歩いてくる」はすべて「男」にかかっているが、この並びでは読むときにテンポが悪い上、「小太りな」が「帽子」に、「帽子を被った」が「前」にかかっているように見えてしまう(見慣れた言葉では脳が修正してくれるので難なく読めるが、よく知らない専門用語だと理解が難しくなる)。

同一の被修飾語にかかる修飾語は基本的に長い順に並べ替えると読みやすくなる。また、修飾先がわかりにくくなる場合は句点を入れるか、そのような煩雑な表現を避けて別の簡潔な表現を使う。文を分けてもいい。

●読点で分けられた前半の主語は「男」、後半の主語は「私」であると考えるのが自然だが(そうでない人もいるかも)、後半では主語が省略されているため、バカ正直に読むと「男は視線を向け、男は(私を)不気味に感じた」とも解釈できてしまう。

主語を省略する場合は句読点の前後で一貫させる。主語が変わる場合は明示する。

修正後:前から歩いてくる、帽子を被った小太りな男は私に視線を向け、不気味さを感じさせた。

ここまで来て国語か、終わった…と思ったあなたに、「日本語の作文技術」(本多勝一 著)という本をおすすめしたい。著者自身も非常に作文が苦手であったようだが、そんな著者がわかりやすい日本語の文章を突き詰めて考え、自身で構築した日本語の作文方法を体系的にまとめてくれている。私もこの本に大いに助けられた(就活でも役に立った)ので、ぜひ手に取ってみてほしい。

まとめると、図・テキストなどのデザイン面と、文章の読みやすさの2点を徹底して追求し、内容を理解しようとする際のストレスを減らす工夫をした。

次のページへ続く。

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